ゲームな日記

君にやっと巡り逢えた
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ハレルヤ




 これは、昔のお話だ。遠い遠い昔の話。
 どのくらい昔の話になるかというと、もうよく分からない。
 あれだけ戦火に見舞われた大地が何事もなかったように青々と元気いっぱいに草木を生やし、吹く風には硝煙も血生臭さも魔術の気配も混じらず、ただただ清々しい。この世の終わりかというほどに荒れていたあの空が嘘のように黄金色の夕焼けに染まっている。
 オラディアには未曾有の平和が訪れた。
 ここにはもう憎しみの炎で満ちたあの目の持ち主はいない。
 クロノス。そう呼ばれていた、恐れられていたあのドラゴンは、もういない。だからこんな平和な景色がある。青々した緑の中でのんびりうたた寝するドラゴンの姿を見ることができる。のんびりとマイペースに空を飛ぶドラゴンの姿を見ることができる。
 それから、ここにはもうドラゴンしかいない。
 人という生き物はこの世界から消え去った。ギガドラゴンと呼ばれていた力あるドラゴンも、いなくなった。
 これは私から、この世界から見た視点であって、真実は逆なのかもしれない。私達ドラゴンが人とギガドラゴンから切り離されたのかもしれない。…いずれにせよここにはドラゴンしかいない。それが現実だ。
 とても平和な風がやわらかく木々の梢を揺らし、川のせせらぎをここまで運んでくる。水は透明で、花は思い思いの色で咲き、弱肉強食の自然の理が正しく機能する世界。
 当たり前のこの景色が、ずっと失われていた。失われていることが当然だった。それが戻ってきた。私には違和感ばかりある平和な世界が。

 なぜ私が平和な世界に違和感を感じるのか?
 それは、私にかつて『メロディ』という名があり、かつてメロディとして生きていた記憶があるからだ。
 私は知っている。死の痛みを。壊れていく世界の音を。絶望に歪んだ顔を。壊れていく世界をそれでも必死に繋ぎ止めようと戦った者達を。
(ああ、それなのに、お前の名前だけが思い出せない)
 メロディ。私にそう名付けた少年がいた。
 いつも泣き出すのを我慢して歯を食いしばっているような少年だった。
 血の、宿命の重さに、いつ潰れてもおかしくない細くて小さな背中をしていた。
 記憶は断片的だ。だが、それでも確かに知っている。私は人間を知っている。ギガドラゴンを知っている。名前を思い出せない君の、生きた軌跡を。私は知っている。



『君はとても不幸な役目を背負うことを決めた。だったら君のワガママの一つくらい、今ここで叶えてしまおう。あるんだろう? 願いの一つくらい』
『願い……』
『僕にできることでないと困るけどね』
『…メロディを』
『彼女を?』
『メロディを、もう一度。あいつにもう一度、生きる機会を与えてやってくれ』
『…転生を望む、ということかな。その場合、君を守護し共に生きることはできないよ』
『いいんだ、もう。メロディはもう俺を護らなくてもいいんだから。
 ……何もしてやれなかった。あまりにも。今の俺ならできることも、何もかも。あいつはもっと生きるべきだったのに、俺に付き合ったばっかりに死んでしまった。魂まで引き裂いて…』
『それは彼女の望みだったよ。ああ、いや。死にたくはなかった…か。
 ふむ、そうか。そうだね。君の心残りがそれなら、そうしよう』



 私の記憶が断片的であるのは、引き裂いて散り散りになった魂が、どこかへ行ってしまったせいなのだろう。回収できなかったのかもしれない。いくらギガドラゴンとはいえ、万能ではない。ここまで私をメロディとして完成させたことにむしろ感心するところだ。
 私はもうこうして息をすることなどないはずだった。
 緑のにおいも、川の水の冷たさも、感じないはずだった。
 この翼が風をはらむことも、二度とないはずだった。
 私は私が護ると決めた少年のため、魂の最後の一片が散り散りになるまで、そばにいるつもりだった。
(私はそれでよかったというのに)
 さく、さく、さく、と元気に茂る草原を踏みつけて、私は歩く。歌うように翼を広げて、かつてそうして護っていた少年のことを想う。
 そう、想うだけで護れた。その代わり、私の中の一つ一つは地に落ちたガラスが割れるように脆くあっけなく、パリン、と音を立てて壊れていった。
 私はそうして終わるはずだった。彼を護り、魂の最後の断片が消失し、穏やかに消えるはずだったのだ。
 …私はそれでよかったのに。


 私は再生した。メロディとして。
 けれど、ここにはメロディとして親しんだものなど一つもありはしない。
 私はふわふわとした心地でここにいる。自分が生きていることを実感もできぬまま、脳裏をかすめる、名前も思い出せない少年の泣き顔に、どうか泣かないで、と願いながら、歌い、舞う。
 私が彼にできることはもう何もない。
 彼は遠くへ行ってしまった。
 私は遠くへ来てしまった。
 もう二度と会うこともないだろう。
 それが彼が望んだ私のしあわせなのだろうか。
 私は、メロディは、死にたくはなかったかもしれない。そのときの記憶も欠けてしまっている私に分かるのは、残った記憶とそこに刻まれた自分の感情。
 メロディは死にたくはなかったかもしれない。
 しかし、こうも思う。メロディは、私は、君から離れたくなかっただけなんじゃないかと。魂を捧げたなどといえばとても大げさですごいことのように聞こえるが、死してなお一緒にいる方法がそれしかなかったから、メロディはそうしただけなんじゃないだろうか。ただそれだけの、とても単純で、明快な。
 メロディは。私は。ただ、君が好きで、好きだから、一緒にいたかっただけなんじゃないだろうか。それがどんな形であったとしても。

「ルー…る、ルー…るーぅ」

 彼が淋しそうに荒野の丘で口ずさんでいた曲。憶えている部分の方が少ない。
 もうこの歌の意味も私には分からない。
 人の言葉はもはや、ドラゴンの記憶から忘れ去られていくだけ。記録できる賢い者もこの世界には残っていない。かく言う私も、文字を書くほど賢くもない。
 いずれ私は死ぬ。生きる者として生まれたのなら当然のことだが…私が死ねば、この世界に、人間のことを憶えているドラゴンはどれほどになるのだろう。
 平和に慣れきったこの世界のドラゴンには想像も及ばない絶望があり、失望があり、諦め、歯を食いしばり、何度も倒れそうになりながら、彼は最期にクロノスを……?
 はた、と思考が止まる。
 クロノスを。…なんだったろうか。肝心な部分が消えてしまっている。
 ああ、なんだったろう。私は肝心なところばかり忘れてしまっている。彼の名前もそうだ。思い出せない。あんなに好きだったはずなのに。

「ルー…る、ルー…るーぅー」

 私は歌う。彼を想って。
 あの泣き虫は今一人きりなのだろうか、と考えたとき、細い背中の横にぼんやりと黒い背中が立っているのが見えた。吹きつけた風の強さに脳裏に浮かんだ映像まで吹き飛ばされてしまったので、二つの背中が並んでいる風景が見えたのは一瞬だった。が、私にはそれで充分だった。
 ああ、憶えている。彼を心配する不機嫌そうな顔。眉間に皺を寄せて煙草をくわえている。そう、ええと…東方の、サムライ。
 ああ、そうだ。そうだった。
 私はそばにいないし、いられないが…彼は独りではない。それが解っただけでもよかった。この止めどない思考にも意味があった。

「ルー…る、ルー…るーぅー…」

 私は歌う。メロディは歌う。彼を想って。彼のために。平和であることに違和感ばかり抱くこの世界の中で。
 この歌もやがて途切れ、彼のしあわせを願う者は、また一人と減っていく。

「ルー…る、ルー…るーぅー」

 私は歌う。
 メロディは歌う。
 違和感ばかりを抱くこの世界で、
 すでに忘れ去られたに等しい人の言葉で、
 この生涯をかけて、
 私は、歌い続けよう。
 

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【 2015/12/02 (Wed) 】 お話 | TB(-) | CM(0)
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Author:モレンド
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