ゲームな日記

君にやっと巡り逢えた
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エンドロールなど流させない 二篇




 昼食時、王が眉間に皺を刻んだ険しい顔で「話がある」と言いに食堂までやって来た。
 食堂で思い思いに昼食をとっていた騎士達がいっせいに敬礼するが、王に気にするなとばかりにしっしと手を振られると、どうしたらいいのかと困惑した顔をこっちに向けてくる。
 王はどうやら俺をご用命だったようだ。それならそれで誰かに命じれば俺が王のところに行ったというのに、相変わらず自分の足で動くのが好きな人だ。だから、俺はこの人が好ましいと思うわけだけど。玉座に座っているだけが王の仕事じゃないと解っている人、というか。
「どうされました? わざわざこんな場所まで」
「仕事の話だ」
 険しい顔と潜めた声でそう言われて、食べかけの食事のトレイを向かいの兵士に押しやった。「片付けておいてくれ」「はっ」敬礼した兵士を置いて席を立つ。
 王が自ら騎士団長である俺のところに仕事の話を持ってきたということは、それなりに重要性のある話だということだ。大勢の耳に入れるべきか否かもある。食堂でするべき話ではないだろう。
 王と二人でクリーム色に褪せてきた城内の内廊下を歩きつつ、その場では何気ない会話をした。王と俺が隣り合って歩いていると、その必要はないのに周囲が畏まってしまうから、それを防ぐためだ。無駄な緊張は日常に必要ない。
「だいぶ色褪せてきましたね。そろそろ壁の塗装くらい塗り替えますか」
「うむ。汚い城では格好がつかぬしな」
「それを言ったら、謁見の間のカーペットもですよ。交換を考えた方がいいかもしれませんね。この間来客した商人が驚いていましたよ」
「そうだったか? ふむ…」
 どうでもいいような会話を交えつつ、他に誰の姿も見えない城の敷地の端までやって来た。見張りのために少し高めの塔があるだけの場所で、この周辺には当番の兵士くらいしかいない。
 王が再び険しい顔で眉間に皺を刻んだ。「ルダール」「はい」「お前に面倒事ばかり押しつけてすまないが…少々面倒な敵が目撃された」「……というと?」面倒な敵、という表現に首を捻った俺に、王は言う。「アンデッドだ」と一言。
 アンデッド。それは死してもなお動き回る死者のことを指す。
「人間の、ですか」
「ああ」
 普通、人間は死んでもそんな存在にはならない。きちんと火葬されれば灰しか残らないし、うちは火葬を選択している国だ。ドラゴンの炎で弔ってもらい、残った灰を集めて瓶に入れ、墓石の下に埋める。そう、この方法なら死者がアンデッドになることはまずありえない。
 他国の死者の埋葬方法にまで口を出すつもりはない。ただ、最近になって、こういうことが増えている。土葬で土の下に埋められたはずの死者が夜な夜な現れて、村や町を襲うのだ。人里に行かずとも動物やドラゴンを襲うという例も確認されている。
 こうなるともう死者を死者として扱ってやることはできない。なぜこんなことになってしまったのかは分からないが、死者はアンデッドというモンスターとして扱われ、片付けられる。
 死者がアンデッドと化す理由、または原因が分からなければ、後手に回るだけだ。現状、うちが火葬を選択し死者のアンデッド化を未然に防いでも、こんなふうにアンデッドが目撃される。無論、放置はできない。ルダール騎士団の登場、というわけだ。
 正直、死者だった者をモンスターとして扱い斬り捨てることには抵抗がある。アンデッドと化してしまった以上と割り切りはするが、そんなことにならないのが理想だ。
「分かりました」
 短く答えた俺に王は浅く頷き、すまんなぁ、とぼやいた。それがやるせない仕事であることを王も分かっている。だから俺は苦笑いでいいえとぼやいて返した。 



 それから一週間ほどで俺と騎士団は任務を完遂し、帰還した。
 両手を伸ばして頭につけていた兜を取ると、やっと少し身軽になれた。そう重たくないものでできているとは聞いているが、頭にずっと何かつけているのはやっぱり首と肩にくる。
(…俺も歳になったかなぁ。今年でいくつだっけ。26? 27? 28だっけ? あれ、30だっけか? まぁ、どれにしたってもう若いとは言えないよなぁ。うん)
 ごき、と首を鳴らして、ついでに視線をぐるりと巡らせて、一つ吐息する。
 簡素な城内に目に見える変化はない。そう、目に見える範囲では何も。
 吸う空気に問題があるわけじゃない。空気というか…気配というか…うまいこと言えないんだが、長年騎士をやっている身としては感じてしまう異変というものがある。
 一週間城を空けていたからな…。俺の気が立ってるだけかもしれない。明日、しっかり身体を休めてからまた確かめよう。そのときにこの違和感を感じなくなっていれば、俺が疲れていたってだけの話で終わる。それが一番いい。
(まずは王に報告に行かなければ。今回の遠征についてまとめた書簡は明日にでも受け取ってもらおう。今日は口頭だけで…)
 華美な装飾も余分なものもない城内の、ランプの灯りが、なんとなく頼りない。ゆらゆらと揺れて今にも消えそうだ。
 ガチャ、と鎧の鳴る音がいつも以上に反響して聞こえる。
 …そういえば、なぜ誰もいないんだ。遠征から騎士団が戻って、隊長である俺が城に戻ってきたのに。出迎えてほしいわけではないが、こんなことは今回が初めてじゃないだろうか。いつも頼まないのに水やら酒やら果物やらを持って誰かしらが出迎えるのに。
 違和感は加速する。自然と足早になる。ガチャガチャと甲冑の音が夜闇に響いては消えていく。
「王」
 簡素な両開きの木の扉は閉ざされていた。その前で足を止めて声をかけてみたが、返事はない。
 騎士団の帰還日は知らせてあったはずだ。不在ということもないはず…。
 違和感は、さらに加速する。
「失礼します」
 両開きの扉。その片方を押し開ける。ギギギ、と軋んだ音を立てて扉が開ききる。
 王はちゃんと玉座に座っていた。居眠りでもしてるのか、うなだれている。予定より遅くはなかったから待ちくたびれて寝てしまったのかもしれない。
 なんだ、と吐息し、歩み寄る歩調を緩めた。
 一国の王に風邪を引かれちゃたまらない。騎士団は無事帰還、犠牲者もなし、任務は完遂。それだけ伝えて今日はもう休んでもらおう。
 王が座る玉座まで敷かれた赤いカーペット。どうせ踏んでしまうのだから大したものである必要もない、という意見が一致し、長年踏まれ続けてぺたんこのカーペットをいつものように踏みつけると、バチャ、と音がした。水音に近い。なぜカーペットからそんな音がするのか、と視線を下げてみる。…いつもと同じ赤に見える。
 いや。外からの僅かな光を反射している部分が、ある。それに水音。この二つを合わせて考えられる赤は一つだけだ。
「王? ルーダル、ただいま帰還しました。……王」
 いくつかの階段を上れば玉座があり、そこに王が座っている。だが、声をかけても反応はない。それどころか呼吸音を感じない。
 甲冑で踏んだカーペットの赤をよく見つめて辿ってみると、それは王の足元まで続いていた。
 躊躇わず階段を駆け上がって王に手を伸ばす。うなだれた身体の肩に手を置いて「王」と揺さぶると、彼は簡単に崩れ、足元の赤の中に転がった。どちゃっ、と重い音が響き、転がった王の身体が赤い色で濡れる。飛び散った赤が甲冑に雫をつけた。
「…、」
 何かを言いかけた口を、ぐっと引き結んで閉ざし、剣の柄に手をかける。
 感じた違和感はやはり当たっていた。
 この城には今誰もいない。いたとして、それは息をしていないただの死体だ。
 騎士団を散会させたところだが、今すぐ叩き起こして街の安全を確認しなくてはならない。
 油断なく視線を巡らせ気配の一つも逃さないようにしながら、後ずさるように、玉座の間を後にしようとした俺は、信じられないものを見た。確かに死んでいた王が動いたのだ。カーペットを濡らしていた出血量から考えれば死んでいるのに、王の手は動いた。濡れた赤に手をつき、よろよろと起き上がる。
 まさか生きていたのかという喜びは一瞬のうちに冷めた。王の身体から腸ようなものが落ちたのが見えたからだ。
 バチャ、と赤の中に落ちた臓物。それでもなお起き上がった王は倒れない。ぎこちない動きで俺へと首を巡らせて、死んだ顔で笑ってみせる。そこに俺の知っている王の面影はなかった。だから、だろうか。あれほどまでに国の未来について熱く語り合った人が死んだというのに、俺は悲しむことができなかった。…それでもやらなければならないことは決まっていた。
 王の手がゆらゆらと、何かを探すように彷徨っている。俺の方へ…いや、生者の方へ来ようと、頼りない足取りで赤を踏みつけている。
 アンデッド。今回の任務の討伐対象だったもの。
 まさか、あなたがなってしまうなんて。
(…騎士として。騎士王の名をいただいた者として)
 剣を鞘から抜くと、キーン、と高い音がした。
 この状態の王を、民や騎士に見せるわけにはいかない。混乱を招くだけだ。
 柄を握る手が軋むほどに強く力を込めて、かつての主を、一閃した。
 すまんなぁ、とぼやいた王が見えた。俺があの人を見た最後だ。…どうせならもっと違う言葉がよかった。最後の言葉が、すまない、だなんて。
 上と下に分かれた王の身体は再び赤の中に転がったが、それでもまだ動いていた。蠢いていた。だが、相手にしている時間が惜しかった。確かめなければならないことは山ほどある。それでもなお血の中を這う王を玉座の間に置いて、バン、と扉を閉ざした。…あの状態ならこの扉を開けることなどできはしないだろう。


 俺は城の中を駆け抜けた。頼りなかったランプの灯りはすっかり消えていた。途中、邪魔だったので兜は投げ捨てた。
「ルダール!」
 俺がそう呼ぶときはドラゴンであるあいつのこと指している。
 城の城門で退屈そうに欠伸をしていたあいつは俺を見るとぴたりと口を閉じた。ぶわ、と翼を広げて地上に下り立つ。『何があった』「王が死んでいた。いや…どう言えばいいかな。とにかく何かまずい。急いで騎士団を召集しよう。状況を確認しないと…」眉間に皺を寄せていたルダールが視線を跳ね上げる。俺じゃない何かに。
 振り返ると生き物の気配のない城があり、雲に沈んだ夜の空が。そして、城の上には何かがいた。ローブを着た集団…のようにも見える。
「何者だ」
 隣で唸り声を上げるルダールと、剣の柄に手をかける俺。
 うちにはあんなローブの集団は存在しない。ということは部外者であり、状況的に、敵だ。
 声はかけたが返事があると期待はしていなかった。そしてその通りになった。
 ローブを着た集団はブツブツと何かを唱えている。詠唱だと気づいた俺はすぐさまルダールに跨った。あいつもすぐに飛んだ。さっきまでいた地面の上で紫の光が弾けて爆発する。
 何者か、分からないが、やるべきことは決まっている。もうずっとそうやって生きてきた。
 剣を抜く。さっき王を斬った剣。拭っていない血がまだ色を残している。
 ルダールや騎士団、街の民も、みんなが俺を善人のようだと言うが、そうじゃない。この手はただ真っ赤なだけだ。手どころか全身、俺は血に浸かっている。そういう生き方をしてきたんだ。今更一人斬るも二人斬るも、十人斬るも、百人斬るも、変わらないさ。
 それで何かが護れるのなら。幸せに生きられる人々がいるのなら。道を切り開くことで、後ろに続く者がいるのなら。俺は。

 いただいた冠と、眩しい白い鎧。
 本当はずっと、これを着るのが嫌だった。
 全身が赤く染まっている自分が纏うにはきれいすぎる鎧。護るという大義のために命を奪い続けた結果いただいた冠。
 本当は誰よりもこの俺が汚れているのに。皆が俺を敬い、目指し、俺の生き方を真似ようとする。
 本当はずっと、それを止めたかった。
 もっと違う生き方をしてほしかった。
 無我夢中で俺を目指した結果、どうなるか、俺が知っているから。

「…一人は残そう。尋問すれば何か分かるかもしれない」
 最後の一人は致命傷を与えない程度に、剣の柄で鳩尾を殴り飛ばした。吹っ飛んで転がったフードの人間をルダールが片足で踏みつけて押さえる。『…尋問か。無駄かもしれん』ぼそっとした声に剣を振るって血を払いながら顔を向けると、渋い顔のルダールが踏みつけた人間を睨みつけていた。『サークス人だ』「サークス人?」『お前は知らぬか…。狂った連中だよ。まともに話ができるとは思わぬ』「…それでも、話をさせるしか、」言いかけた俺はカチッという何かのスイッチが入る音を聞いた。瞬間、ルダールの足元にいた人間が爆発した。頭だけ。威力はなかったのでルダールに怪我はなさそうだったが、飛び散った肉片や骨を迷惑そうに振り落としていた。
 突如首から上を失った身体は一拍遅れてから血を溢れさせ、地面を汚していく。
 自爆、か。
『言ったろう。狂った連中だ』
「…そうみたいだな」
 一つ吐息して、マントを取り払った。血やら何やらで汚れたルダールの顔を拭いてやる。他に拭えるのに使えそうなものがなかったからマントで我慢してくれ。
『おい、何をする』
「その顔で飛んで行ったら皆が驚くだろ。お前に騎士団を召集してきてほしい。俺は街を見回ってくるから」 
 むぅ、と唸ったルダールの頭を撫でた。「頼んだ」『…仕方ない』ばさ、と翼を広げたルダールが暗い空の中に飛び上がり、街の明かりを目指して滑空していく。すぐに小さくなっていくその姿を見送って、汚れたマントで剣の刃も拭っておいた。
 俺に撫でられた子供が嬉しそうに喜ぶ姿や、俺と握手した兵士が感動で顔を輝かせる様や、撫でられれば目を細くして小さくゆらりと尻尾を振るルダールは、こんなに汚れた手に触れられて嬉しいんだろうか、とたまに思う。
(さあ、騎士王ルダール)
 目を閉じて、一つ深呼吸する。
 血のにおいにはもう慣れた。
 俺がやらないで、誰がやる。その手を汚す。
 もう取り返しのつかないほどに汚れた手が、血で腐って落ちるまで、剣を握り続けろ。それが俺にできる唯一だ。


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【 2015/09/08 (Tue) 】 お話 | TB(-) | CM(0)
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