ゲームな日記

君にやっと巡り逢えた
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エンドロールなど流させない 三篇




 暗雲が垂れ込める、と表現する空があるとしたら、今まさに見上げているこの空のことではないだろうか。
 呼吸する空気が重い。そのせいで雲も重たく、空の高さというものが感じられない。鉛色の重い雲は途切れることなく青いはずの空を覆い、まるで世界の半分に蓋をされてしまったかのように感じる。それは私に翼があって空を飛べるが故に感じてしまう圧迫感だといえる。
 しかし、こんな空がもうずっと続いている。さすがの私でさえうんざりするというものだ。
 なんでも、この分厚い雲は自然発生したものではないのだという。それもこれも『サークス人』が関与している。
 それと、あのドラゴン。禍々しい、とも表現できる力を持つ、かつてはモンティカから託された力を正しく使っていたドラゴン。しかし、今は憎しみに満ち、その力を己の欲望の成就にのみ用いている、この世界に呪詛を吐き続けるドラゴン。
 私は奴がモンティカに信頼されたブラックドラゴンであった頃の姿を知らない。私が知るクロノスというドラゴンは、すでに堕ちたブラックドラゴンだ。奴が何を経験し、何を思い、世界を呪うようになったのか…それは分からない。
 ただ、多くのドラゴンの犠牲を出し封じられたはずのクロノスが復活したという噂は私も聞いていた。しかし、噂は噂であり、ドラゴンの一員とはいえ、私にはどこか遠い話でもあった。クロノスに関わるほど悪の道にも正の道にもいない孤独な生き方をしていたためだ。
 それを今こんなにも身近に感じている。

 クロノスがもたらす世界への憎しみ。
 その力に魅せられ、侵され、悪の道へと堕ちたサークス人。サークス人により堕ちたドラゴン。
 それらが今世界を蹂躙しようとしている。

 私の頭上には重く暗い色をした空があり、踏みしめる大地は荒野であり、草木の姿がない。この間この辺りを訪れたときには空は青く草木も生い茂っていた。川も澄んだ飲める水だった。それが今は濁りきって、とてもじゃないが口にできるものではなくなっている。そして、吸う空気の異常な重さ。呼吸に息苦しさ、不快感を伴う、と言ってもいい。
「…酷いな」
 ぼそっとした声に私は浅く顎を引くようにして頷いた。
 ルダールは私の横で倒れている人間の生死を確認していたが、私にはすでに分かっていた。呼吸はしていない。死んでいる。死因までは分からないが、この辺りにバタバタと倒れている人間から息遣いは感じない。
『ルダール。生きている人間はいないぞ』
「そうみたいだな…」
 ルダールは軽く溜息を吐くように吐息し、待機している騎士団に死体を一カ所に集めるよう指示した。そうしてどうするか? 私が火葬するのだ。死人がアンデッド化してしまわないように。二次被害を未然に防ぐために、見かけた死体はドラゴンでも人間でもできる限り火葬している。
 おかげで私は最近喉がカラカラと渇くのだが、それは内緒にしている。なぜか? まぁ、これ以上奴に余計な気負いはしてほしくないから…だろうな。


 私はルダールに頼まれてドラゴンの聖地アノヤーテンを訪れ、ギガドラゴンに現在の事情を聞いた。それで私に何かができるというわけではないが、現状の確認は重要だとルダールが言うので、仕方なく、だ。
 私は私にできることなら何でもしてやりたかった。それで少しでもルダールの気が休まるならそうしてやりたかった。
 ルダールの国は王という柱を失い傾き始めている。その分ルダールにかかる期待や重圧は依然よりずっと大きい。奴もさすがに疲れているのだろう、最近は眉間に皺を寄せて難しい顔で溜息を吐くこともある。私はそんな奴の力になってやりたかった。
 そのためなら気後れするアノヤーテンにも顔を出すことくらいする。
 あの場所は、なんというか、苦手だ。私には程遠い場所だ。死後は世話になるのかもしれないが、生きているうちに聖地を出入りするというのも、なんとも複雑な気持ちになる。
 アノヤーテンはどんなドラゴンでも受け入れる姿勢でいる。だが、そこにいるのは血統と力のあるギガドラゴンばかりであり、私のようなものが出入りするのはやはり憚られるものだ。
 …アノヤーテンで聞いた話は、なかなかに重いものだった。
 サークス人がクロノスと結託したこと。錬金術や呪術といった怪しげな術とクロノスの力で世界中のドラゴンが次々と犠牲になっていること。それに対抗するため、慧眼のイサイアと呼ばれるドラゴンがオーセラ人に協力を要請し、サークス人が率いる堕ちたドラゴンの軍団と戦っていること。そのぶつかり合いは未だ各地で続いていて、戦火の火はいずれ我々のもとにも届くだろう、ということ。
 私はこれ以上ルダールに重荷を背負ってほしくはなかった。
 だが、世界の流れは、奴を休ませることなど許さなかった。 
 国が縋る。奴に縋る。王という柱をなくし、暗雲垂れ込める空に不安を募らせ、奴に縋る。どうか護ってくれと。助けてくれと。
 騎士王ルダールは、その重圧から逃げない。逃げることなどできはしない。奴が逃げたらすべてが瓦解するだろう。すべてのものがバラバラになって逃げ出すだろう。騎士団はルダールがいるから騎士団としてかろうじて機能しているのだ。皆疲れている。ルダールが折れてしまったら、皆折れてしまう。
 奴はどんな気持ちで大丈夫だと笑ってみせるのだろうか。
 その肩にのしかかる荷物は重くなるばかりで、そのうちお前はその重さに耐えられず、膝をついてしまうのではないだろうか。


「団長! 前方上空にドラゴンを目視!」
 私が死体を焼き払っていると、双眼鏡を覗き込んで周囲を警戒していた騎士団の兵士の一人が鋭い声を上げた。一瞬で辺りに緊張が走るが、ルダールは冷静だった。「数は」「は、空に一頭です。首が二つ…ツインヘッドドラゴンかと思われます」「他に特徴は?」「…片方の首が折れています。恐らくすでに堕ちたドラゴンかと」ボッ、と炎の塊を吐き出して私は口を閉じた。暗雲の空を睨み上げ、兵士が双眼鏡で覗き込んでいる辺りを睨みつける。
 ……ああ、確かにいる。頭が二つ。首が片方不自然な方向に折れ曲がっている。色が黒いから雲に紛れて見つけづらい。
『落とすか』
 私がぼやくように言うと、ルダールは「頼めるか」と言って剣の柄に指を滑らせた。「恐らく斥候だ。片付けたらすぐに戻ってくれ」『承知』重い空気を掴み、ばさっ、と翼を広げて飛び上がる。
 生き物の焼ける臭いですっかり鼻が麻痺して、死臭にも気付けない。見える範囲に屍となったドラゴンがいるというのに気配を逃す。ああ、嫌な世の中になったものだ。

 あの輝かしい世界はどこへいってしまったのだろうか。
 騎士団に守られ平和に幸せに暮らし、笑う人々。国のために規律を守りルダールに従う騎士団と、誇らしげに風に揺れる騎士団の紋章の入った旗。民のためを思い政策を打ち出す王の気さくな笑顔。多くの者を慈しみ、護り、剣を手に取る、光の道を行くルダール。ルダールに護られ、魅せられ、その生き方を目指す者。
 これ以上ないほどに眩しかったあの世界が、今はもうどこにも見当たらない。
 あんなに美しい生き方だったのに、なぜ失われてしまったのか。なぜこうなってしまったのか。
 私がそれとなく吐露したとき、ルダールはこんなことを言ったものだ。


『不幸が許せなかったんだよ』
『何?』
『自分達だけ不幸なのが、許せなかったんだ。幸せになりたかったんだよ。そのクロノスってドラゴンも、たぶん、サークス人も』
『…幸せなどと。そんなもののために世界を陥れると? 愚かな』
『真理だと思うけどな、俺は。
 誰だって悲しい気持ちのまま生きていたくはないものさ。誰だって笑って前を向いて生きていたい。でもそれが叶わない。それなのにどこかで誰かが自分の理想を体現して笑っている、それが許せない。だから、世界を堕とそう…みんなが不幸になれば、自分の悲しさが当たり前になって、少しは楽になれるとでも考えたのかな』
『…………だが、そのやり方は間違っている』
『ああ、そうだ。どうしようもなく間違っている。賛同することはできない…だから、戦わないといけないんだ』



(だが、ルダール。もしクロノスの根底にそんな感情があったとして…そうだとして、それなら、この戦いの行きつく先は一体何になるのだ。どこになるのだ)
 半分屍として腐ってきているドラゴンを落とすのは難しいことではない。動きは鈍いし、生きているときの半分ほどのことしかできないとみていい。
 折れている首に灼熱を吐きかけ、まだ繋がっている首を爪で切り裂き、翼を片方喰いちぎって地へと落とした。まずい血の味のする口内はすぐに炎を吐き出すことで殺菌した。
(ルダールのもとへ戻らなければ)
 荒野の中を不自然な足取りでこちらに向かっている群れがある。種族もバラけてまとまりがないドラゴンが多数に、フードを被った人間の形…。サークス人と支配されたドラゴン達だろう。これで何度目だろうか。
 かろうじて機能しているあの国を落とそうとこうしてやってくる。ルダール率いる騎士団は国を守るため、襲い来る敵と戦い続けている。終わらない戦いに、騎士団の疲労は大きくなる一方だ。
 ばさり、と翼を翻してルダールのもとへ戻る。相変わらず空気が重く、息をするのにも眉間に皺が寄る。
 今からこの荒野は戦場になる。騎士団の誰もが予感している。だから表情は硬い。
 だが、私が戻るとルダールだけは笑顔を浮かべて私の頭を軽く叩いてから撫でてくる。
 私を労わるその手は、今日も剣を手に、命を刈り取る。譲れないもののため、それらを護るために、その手を汚す。
 俺は血に浸かっているんだよ。そう言って寂しそうに笑った奴を一度だけ見た。その日はちょうどこんなふうに天気の悪い夜の空の下で、辺りは真っ暗で、私はそのまま奴がどこかに沈んでしまうような気がして、マントの端を軽く噛んで引っぱったものだ。
 たとえそうだとしても、その生き方をお前は続けた。自分のためではなく誰かのために立ち続けた。その生き方は間違いなく美しい。
 そう吐き出した私に、奴は珍しくきょとんと不思議そうな気の抜けた顔で私を見て、それから本当の顔で笑った。飾らない素の笑顔で笑った。
 私は、その顔を見て、この命が燃え尽きるまでルダールについていこうと誓った。
 だから私は折れない。絶対に折れない。たとえルダールが膝をついたとしてもその背を守り抜く。
 私が尽きるとき。それは、ルダールの命が尽きるときだ。


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【 2015/09/17 (Thu) 】 お話 | TB(-) | CM(0)
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